8 月 7 日
おっさんに言わせると、3 日も歩いてれば身体が順応して楽になってくる、ということなのですが、むしろ疲れがたまってきたような気がする 3 日目最終日。
暗いうちにおっさんに揺り起こされる。すぐさまヘッドライトを持って更衣室に行き、タイツをはいておいた。宿泊者用の調理室(簡単な流しがあってカウンターがあるだけですが)でお湯を沸かして、レトルトの朝食。例によって、ぞうすいと味噌汁の MIX。調理室にはそれぞれ単独行の女性がおふたり。1 人だと気を遣わなくていいので楽なんだそうだ。自由で自立していていいな、と思う反面、おっさんがいなければこんなところまでは来られなかったにちがいない私はなにか不甲斐ない気もする・・・。彼女たちとは、のちほどまた会えたらいいなと思っていたけれど、結局その後追いつくことは一度もなかった・・・。
出発は 4 時半くらい。夜明けの山も今日で最後。一生ここで暮せそう、なんて軽々しく思ったりする反面、早く山を降りてお風呂に入りたい、乾いた布団で寝たい。
朝日岳登山道を登ってゆく。すこし立ち止まるとすぐに虫がまとわりついてくるのです。
木のてっぺんでさえずる鳥。
朝日岳山頂。最後のピーク。
視界は曇りがちでしたが、そんな中から現れる花園は神秘的で、なんだか私の中では天国ってこんなイメージかな。
なんでハシモトばっかりかっていうと、リュック担当の私が歩くことに必死だったから。おっさんが撮ったハシモトの写真しかないのです。
こまめに休憩をとり、飴やらアミノ酸やらを口に入れながら歩きます。 この日は天候があまり良くなかったのですが、強い日差しに焼かれずにすんで助かったかも。
つかれたなぁー、と思う頃に沢に出ます。
ここでリュックを降ろして靴を脱ぎ、足を水に浸しました。
登山靴の靴底は固いので、3 日も履いてると足の裏が腫れてきちゃうんですね。
朝日小屋で作ってもらったお弁当を食べます。できれば、蓮華温泉発 13 : 30 のバスに乗って早めに宿に入ろうということだったのだが (次のバスは 16:00 までない)そろそろ間に合うかどうか怪しくなってきた。おっさんの単独行のときは、早く着き過ぎちゃって、13:30 のバスまでの時間をもてあましたとか言っていたので、私が相当なブレーキになっていることがわります。
降り切ったところで沢を越え、登り返します。
あとちょっとだから。とおっさんは言う。
地図上で見るとほんとにあとちょっとなんだけど。
だんだん気持ちが不安定になる。おっさんに「ぜんぜんちょっとじゃないー!」「もう登るの嫌だー!」と文句を言い始める。
「あ、またぼやきスイッチが入った」とかえって面白がっているおっさん。
結構道が荒れていたりして、苦労した。
木道が現れ、道が整備されてきたと思ったら、この木道が急に降り出したにわか雨に濡れてすべるすべる。
木道は歩きやすいようで曲者なのだ。
辛いしんどい言いながら登っていると、こんな赤い花の咲き乱れる湿原に出たりして。
へこみそうな気持ちを奮い立たせて、最後の木の階段へ。「ここを登りきったら温泉だからー」「ほんとにあとちょっとだからー」とおっさんに励まされて、登りはじめる。
「降りたらなに食べようか」なんてなるべく明るい気持ちになるような話をしながら、登り続ける。
しかし階段を登りきったと思ったら、方向を変えてまた階段が続いている。切り返しながらいつまでもいつまでもいつまでも続く地獄の階段なのであった。
「お地蔵さんになりたい」と思わず口にしていた。攻撃の矛先はまたもやおっさんへ。
「おっさんが振り返ったら、私はお地蔵さんになっちゃってるんだよ」「そしたらきっと、もっと優しくすれば良かったって後悔するんだよ」と自分でもわけのわからないことを口走る。
「お地蔵さんになったら温泉に入れないよ」
「入れなくてもいい」
「こんなとこまで会いにくるの大変じゃん」
「会いに来なくていい」
ついにおっさん、私のリュックを持ってくれました。できれば最後まで自分で持って歩きたかったんですけどね・・・。
永遠に続くかと思われた階段も、ついに、at last、終わりがやって来て、そこからは広い林道に出ました。2 つのリュックを身体の前後に抱えて歩くおっさんのうしろを、よれよれで歩く。
やっとの思いで秘湯・蓮華温泉に到着したときには、逆に、とうとう歩くのが終わったんだという実感がなかなか沸かなかったり。
2 年前におっさんが単独行で訪れたときの蓮華温泉内湯の写真。時間が早かったので貸切状態だったとか。↓
洗い場に備え付けのシャンプーで 3 日ぶりに頭を洗ったら、汚れがひどいせいかなかなか泡立たなくて、2 度洗いしなければならなかった。頭のてっぺんから足の先までごしごし洗って、ようやくたっぷりの湯船につかります。じわじわとお湯が痛んだ身体中沁み渡り、思わずため息が漏れました。地獄から一転極楽へ。
すっきりさっぱりして、清潔な衣類に着替えると、あんなにへろへろだったのに元気が出てくる不思議。温泉の食堂でジュースとビールで旅の終わりの祝杯をあげました。無事に歩きとおせてよかった。
16:05 蓮華温泉発のバスで、ながーいながーい山道を下ります。蓮華温泉にたどり着くまでは延々と続く上り坂と格闘しながら「なんでこんなとんでもないところにバス停を作るんだよー」と思わず泣き言を漏らしてしまった私でしたが、反対側だけでも道を舗装して車が通れるようにしてくれといてよかったと、バスの車窓から思うのでした。
平岩駅で下車。線路沿いにぶらぶら歩いて 10 分足らずで今夜のお宿に到着。
ホテル国富翠泉閣さん。
可愛い仲居さんにピカピカの館内を案内されて、広くて明るいお部屋でまったり。豪華な食事を堪能。つい数時間前まで、山の中でなりふりかまわず悪戦苦闘していたのが嘘みたいです。竜宮城にやってきた浦島太郎のような気分に。
お湯に浸かると、火傷のようになっていた日焼け跡がひりひりするのです。特に太陽が当たっていた身体の右半分。腕なんか見事な土方焼けに。
厳しいチャレンジでしたが、天候に恵まれ、おっさんのフォローもあってなんとか無事に終えることができました。
最後の 2 時間をぼやきながら登っていたときには、私にはもうこんな山は無理だな、二度とこういう高山縦走をすることはないだろうな、と思っていたのですが、ほとぼりがさめるとやっぱり辛かったことより、楽しかったことばかり思い出して、ついうっかりまた行きたいなぁ、という気になってきてしまうんですね・・・。こういうことばかり、繰り返しています。また、次はあるのかなぁ。